ピースボートの乗客の中で一番多いのはシニア層だが、その次に多いのは大学生だ。
私が乗ったクルーズはちょうど夏休み期間にかぶっていたこともあって、特に大学生の比率が多かったそう。
ちなみにシニア、大学生に続く第3勢力が私達20代後半~30代前半組。
私と同じように何年か社会人として働いた後、会社を辞めて来た人達が多い。
それにしても、船で世界一周するにはお金が掛かる。
他の豪華客船と比べたら格段に安いPeace Boatでも、約3か月のクルーズで基本料金だけで約100万円。
自分が大学生時代にはそんなお金無かったのに、何故こんなにたくさんの大学生が世界一周クルーズに乗れるのだろうと不思議に思っていたが、それにはちょっとしたからくりがあった。

「ピースボート」という名前を知らなくても、居酒屋のトイレによく貼ってある世界一周のポスターと言えばピンとくる人も多いはず。
まさにこのポスターが若者とPeace Boatを結びつけているのだ。
このポスターは、ピースボートのボランティアスタッフと呼ばれる人たちが貼っている。
実は貼った枚数に応じて、世界一周クルーズ乗船時の料金が割引になるという仕組みがあるのだ。
確か3枚で1000円分の割引だったかな。
この仕組みを利用して、100万円のクルーズ代金全額をポスター貼りの割引で支払うツワモノも結構な数存在する。
ちなみにこれを「全クリ(ア)」と呼び、「○○君全クリしたんだって~」というような会話も良く耳にする。
なぜ居酒屋のトイレでピースボートのポスターをよく見かけるか、それは貼れるポスターの枚数を稼ぎやすい=効率よく旅行代金の割引を貯められるから、です。
特に大規模なチェーン系居酒屋であれば、各階に最低男女トイレで×2、各個室にもポスターを貼って良いとなれば、トイレの個室分ポスター枚数を稼げるというわけ。

このピースボートのポスター貼り、モノは試しと思い私も2回だけ挑戦したことがある。
「知り合いの店に貼らせてもらうのかな?」位に思っていたら、これがかなり組織立ったものでびっくりした。
ピースボートのポスター貼りをしたい人は、朝8時に地域のピースボートセンターに集合する。
そこには今日ポスター貼りをする地域の地図が広げられていて、それぞれの担当区域が割り振られる。
「○○君はXX町2丁目のこの道路からこの道路まで」というような具合だ。
そのエリア内にある建物には、飲食店であろうと民家であろうとパチンコ店やラブホテルであろうと、全て飛び込んでポスターを貼らせてくださいとお願いする。
既にピースボートのポスターが貼ってある場合、新しいものに貼り替えさせてくださいとお願いする。
OKが出たら、1枚1枚貼った所の住所、店舗名、貼った場所、壁の素材などをメモして、貼らせてもらったお店や家の方の承諾サインをもらう。
これを丸一日繰り返すのだ。
100枚近いポスターやらテープやらを担いで一軒一軒飛び込んで回るのは、精神的にも肉体的にもかなりタフな作業。
でも周りの皆は「船に乗る」という目標達成の為に、毎日生き生きとこのポスター貼りを繰り返していた。
お試しで参加した私は超新米ということで、ポスター貼りの「先輩」が一緒に回ってくれて、手取り足取りやり方を教えてくれた。お昼時には、その日同じエリアでポスター貼りをしているメンバーで集合してランチをしたり。
社会人の視点で見ると、このポスター貼りというのはなんともよくできた仕組みだと思う。
Peace Boat側はほとんどコストを掛けずに、若者の労働力を大量に広告営業に投入することができる。
ポスターは無料で貼らせてもらっているから、広告料も掛からない。
若者側は旅行代金を貯められるだけでなく、船に乗る前から仲間が出来たりして楽しそうだ。
ピースボートの旅行代金分を稼ぐのには、正直もっと割が良くて楽なアルバイトはいくらでもあるはず。
それでも毎日汗だくになりながら楽しそうにポスター貼り行脚をする彼らを見ていると、実は「一つの目標に向かってがむしゃらに頑張る」という体験を欲しているのかな、と感じた。
最近の若者はストレス耐性が無い、大変な仕事をしたがらない、などと言われるが、一度やる気を出す環境が整えば、かなりストイックに頑張る人達も多いのだと思う。
若者のモチベーションを上げる仕組み作りの参考になりそうだな、なんて思いながら、ピースボートのポスター貼りシステムを眺めていた。
<これは2012年8月~11月に世界一周をした際の旅行記になります>